
通常ビールをオーダーするときは、注がれるグラスよりもビールそのものに関心がいくものです。
しかし、ピルスナーのグラスに多くの歴史があり、多くのデザインが駆使されてきたかを知ると驚くかもしれません。
19世紀以前、飲料水の容器の材料は木や石、あるいは白目でした。このような不透明な素材では中身を目で確かめることができませんが、それはそれで問題はなかったと思われます。当時ほとんどのビールは色が濃く、どろどろだったからです。産業革命によりガラス製造の原価が大幅に下がり、透明なガラスが一般大衆に普及しました。
ガラス製造者は、突然多くのことに考えを巡らす必要に迫られました。居酒屋のオーナーは、簡単に積み重ねられる耐久性の高いグラスを必要としました。飲む側にも言い分がありました。例えば、ドイツの初期のビールジョッキは、金属か粘土の蓋が付いており、ビールに虫が入るのを防いでいました。ガラスの人気が出たのは 半透明だったからではなく、安く軽かったためでした。
ピルスナーウルケルの誕生により、すべてが変わりました。突然ビールは鑑賞に値するものになったのです。ビールの独自の色とアロマを引き立てるのは、飲んだときの体験を高めるグラスでした。ピルスナーグラスの誕生です。あらゆる要素が、目的を持ってデザインされています。
古典的なピルスナーグラスの長くスレンダーなテーパーは、ビールにできるだけ多くの光が透過する効果をもたらし、鮮やかな金色が誇示されます。グラスのステム(脚)部分を持つことで、ビールの温度を低いままに保ちます。さらにワイングラスと同様に、上部でアロマ濃度が高まる形にデザインされ、多感的なピルスナー体験をお楽しみいただけます。
歴史上最も有名なピルスナーグラスは、フランツ・ヨーゼフ1世が1874年に醸造所を訪問したときに特別に製作された、モーゼル・クリスタル・グラスです。皇帝は当社のビールを愛飲しており、「不思議なことに、どの醸造所もピルスナービールの並外れた美味を真似できたためしがない」と言ったとされます。このグラスは今でも当醸造所に展示されており、ギフトショップでレプリカを購入できます。同ショップには他にも古いピルスナー・グラスがいくつか展示されています。
今でも、特にチェコ共和国を訪れた際には、昔ながらのピルスナーグラスでビールが出されますが、現在、当社のパブは頑丈な持ち手の付いた実用的なマグを使っています。頑丈で丸みのある形、そしてマグの下の角度のついたカットで、ビールの色が映えます。近くで見ると、縁からかなり下の方に目盛りが刻まれているのが分かります。大きめに作られたグラスに、厚くクリーミーでしっとりとしたな泡を満たすための目盛りです。
次回ピルスナーを飲まれるときに、容器にも少し目を向けてください。ですがあまり長く眺めないように。本来の主役はビールですから。